「子どもの前では吸わないようにしている」「換気扇の下で吸っているから大丈夫」「加熱式タバコに替えたから、家族への影響はないはず」。家族と暮らすタバコを吸う方の多くは、周りへの影響を気にかけて、自分なりの工夫をしているのではないでしょうか。
ところが、こうした工夫だけでは、周囲の人がタバコの煙や成分にさらされることを十分に防げないことがあるとされています。この記事では、受動喫煙の基本と、家族・子どもへの影響として指摘されていること、加熱式タバコの注意点、法律で定められたルール、そして家庭でできる対策を、効果の目安とあわせて整理します。
受動喫煙とは?
受動喫煙とは、自分はタバコを吸っていなくても、他人のタバコの煙を吸い込んでしまうことをいいます。タバコの煙には、喫煙者が吸い込んで吐き出す「呼出煙(こしゅつえん)」と、火のついた先から立ちのぼる「副流煙(ふくりゅうえん)」があります。
副流煙には、喫煙者が直接吸い込む主流煙よりも多くの有害物質が含まれている成分があるともいわれています。受動喫煙は、タバコを吸う本人だけでなく、周りの人の健康にも影響を及ぼす問題として位置づけられています。
受動喫煙による健康への影響として指摘されていること
受動喫煙は、肺がんや心臓の病気(虚血性心疾患)、脳卒中などのリスクを高めることが指摘されています。また、子どもについては次のような影響が挙げられています。
- ぜんそくなどの呼吸器の病気
- 中耳炎
- 乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスク
妊娠中の女性が受動喫煙にさらされることも、おなかの赤ちゃんへの影響が懸念されています。子どもは自分で煙を避けることが難しいため、周りの大人の配慮がとても重要です。
見落とされやすい「三次喫煙(サードハンドスモーク)」
最近では、タバコの煙そのものだけでなく、煙が消えたあとに残る成分にも注目が集まっています。これを「三次喫煙(サードハンドスモーク)」と呼ぶことがあります。
タバコの煙に含まれる成分は、衣服や髪、カーテン、壁、ソファ、車のシートなどに付着し、時間がたっても残ることがあるとされています。そうした成分が空気中に再び放出されたり、手で触れたものを口に運んだりすることで、周囲の人が取り込んでしまう可能性があると指摘されています。
特に、床をはったり、さまざまな物を口に入れたりする乳幼児は影響を受けやすいのではないかと考えられています。三次喫煙の健康影響については、まだ研究が進められている段階ですが、「吸い終わったら終わり」ではないことは知っておきたいポイントです。
加熱式タバコなら周りに影響はない?
加熱式タバコは、紙巻きタバコのように葉を燃やさず加熱するため、煙やにおいが少ないと感じる人が多いようです。しかし、加熱式タバコから出るエアロゾル(蒸気)にも、ニコチンや有害な物質が含まれているとされています。
加熱式タバコは比較的新しい製品であり、周囲の人への健康影響は、まだ十分に明らかになっていません。「煙が見えにくい」「においが少ない」ことは、「周りに影響がない」ことを意味するわけではありません。家族への配慮として加熱式タバコに切り替えた方も、受動喫煙の対策が必要であることに変わりはないと考えておきましょう。
加熱式タバコと禁煙治療については加熱式タバコも禁煙外来の対象?で解説しています。
改正健康増進法で定められた受動喫煙対策のルール
受動喫煙を防ぐため、健康増進法が改正され、2020年4月に全面施行されました。これにより、多くの人が利用する施設では、原則として屋内禁煙となりました。主なポイントは次のとおりです。
| 施設の種類 | 主なルール |
|---|---|
| 学校・病院・児童福祉施設・行政機関など | 原則として敷地内禁煙(屋外に一定の条件を満たした喫煙場所を設けられる場合あり) |
| 事務所・飲食店・ホテルなど、多くの人が利用する施設 | 原則屋内禁煙。喫煙できるのは、基準を満たした喫煙専用室などに限られる |
| 加熱式タバコ | 専用の喫煙室を設けた場合、その室内で喫煙が認められる(飲食が可能な場合もある) |
| 20歳未満の人 | 喫煙エリアへの立ち入りは、客・従業員ともに禁止 |
| 喫煙室がある施設 | 喫煙室の種類などを示す標識の掲示が必要 |
※一部の既存の小規模な飲食店などには経過措置があります。また、自治体によっては条例で独自のルールを定めている場合があります。詳しくは厚生労働省やお住まいの自治体の情報をご確認ください。
家庭は法律の対象外。だからこそ自分たちで決める
改正健康増進法は、主に多くの人が利用する施設を対象にしており、個人の住宅は原則屋内禁煙のルールの対象外です。一方で、法律では、喫煙する際に周囲の人への受動喫煙を生じさせないよう配慮する義務も定められています。家庭での受動喫煙を防ぐには、家族で話し合ってルールを決めることが大切です。
家庭でできる受動喫煙対策と効果の目安
家庭でよく行われている対策を、受動喫煙を防ぐ効果の目安とあわせて整理しました。効果は住まいの構造や換気の状態などによっても変わります。
| 対策 | 効果の目安 | 注意したいこと |
|---|---|---|
| 換気扇の下で吸う | 限定的 | 煙の一部は室内に広がるとされ、壁や家具に成分が残ることもある |
| 空気清浄機を使う | 限定的 | においは減っても、有害成分をすべて取り除けるわけではないとされる |
| 別の部屋で吸う | 限定的 | ドアの開け閉めや服・髪に付いた成分で、ほかの部屋にも広がることがある |
| ベランダや屋外で吸う | 一定の効果はあるが不十分 | 窓のすき間から煙が入り込んだり、近隣に流れたりすることがある。戻ったあとの服や息にも成分が残る |
| 家の中・車の中を完全禁煙にする | 家族の受動喫煙を減らすうえで有効 | 喫煙者本人の服や髪に付いた成分による影響は残り得る |
| 禁煙する | 受動喫煙・三次喫煙の両方を根本からなくせる | 自力で難しい場合は禁煙外来の活用も検討を |
すぐに始められる家庭のルール例
- 家の中と車の中は、窓を開けていても吸わない
- 子どもや妊娠中の家族がいる場所では吸わない
- 外で吸ったあとは、手洗い・うがいをしてから子どもに接する
- 喫煙用の上着を分け、室内に持ち込まない
- 灰皿や吸い殻、加熱式タバコの使用済みスティックは、子どもの手が届かない場所で処理する
タバコや吸い殻、加熱式タバコのスティックなどを子どもが誤って口に入れてしまった場合は、自己判断で吐かせようとせず、すぐに医療機関や中毒に関する相談窓口に相談してください。保管場所には十分注意しましょう。
外出先・車内で受動喫煙を避けるポイント
受動喫煙は家庭の中だけの問題ではありません。家族で外出するときにも、次のような点を意識しておくと、子どもが煙にさらされる機会を減らせます。
| 場面 | 注意したいこと | できる工夫 |
|---|---|---|
| 車での移動 | 車内は狭いため、窓を開けても煙や成分が残りやすいとされる | 車内は常に禁煙にする。休憩時に吸う場合も子どもから離れた場所で |
| 飲食店 | 経過措置により、喫煙可能な店舗が残っている場合がある | 入口の標識を確認し、子ども連れのときは禁煙の店を選ぶ |
| 屋外の喫煙所付近 | 屋外でも、喫煙所の近くでは煙が流れてくることがある | 喫煙所の風下や出入口付近を避けて歩く・待つ |
| 親族・友人の家 | 家庭ごとにルールが異なる | 訪問前に子ども連れであることを伝え、配慮をお願いする |
20歳未満の人は、施設の喫煙エリアに立ち入ることが法律で禁止されています。子ども連れで喫煙室のある施設を利用する場合は、喫煙エリアの場所を確認しておくと安心です。
家族のために禁煙を考えたら
家庭でのさまざまな対策にも限界があることを考えると、家族を受動喫煙から守るいちばん確実な方法は、喫煙者本人が禁煙することです。「子どもが生まれる」「家族に体調の不安がある」といったタイミングは、禁煙を考えるきっかけになりやすいでしょう。
家族が禁煙を応援する側になる場合は、責めたり監視したりするのではなく、協力して取り組む姿勢が大切です。家族のかかわり方は家族の禁煙をサポートするにはで詳しく解説しています。
禁煙外来という選択肢
何度も禁煙に挑戦してうまくいかなかった方は、禁煙外来を活用するのもひとつの方法です。禁煙外来では、禁煙補助薬の処方や医師・看護師のサポートを受けながら禁煙に取り組めます。一定の条件を満たせば、保険適用で治療を受けることもできます。禁煙外来の基本は禁煙外来とは?をご覧ください。
タバコにかけている金額を計算してみると、禁煙のメリットを家族と共有しやすくなります。タバコ代計算ツールも活用してみてください。お近くの医療機関は全国の禁煙外来をエリアから探すから検索できます。
受動喫煙に関するよくある質問
子どもが寝ている間なら、家の中で吸っても大丈夫ですか?
煙が見えなくなっても、室内の空気や壁、家具などに成分が残ることがあるとされています。子どもが寝ている間であっても、家の中で吸うことは受動喫煙や三次喫煙につながる可能性があります。
職場の受動喫煙が気になる場合はどうすればいいですか?
改正健康増進法により、事務所などは原則屋内禁煙となっています。職場の受動喫煙が気になる場合は、まずは職場の担当部署や産業医などに相談してみましょう。職場での禁煙の取り組みについては職場で禁煙を始めるにはも参考にしてください。
パートナーが妊娠しました。自分が吸い続けても影響はありますか?
妊娠中の受動喫煙は、おなかの赤ちゃんへの影響が懸念されています。また、赤ちゃんが生まれたあとも、家庭での受動喫煙や三次喫煙の問題は続きます。パートナーの妊娠は、禁煙を始めるきっかけとして考えてみてはいかがでしょうか。気になることは、妊婦健診の際に医師や助産師に相談することもできます。
電子タバコ(VAPE)なら受動喫煙の心配はありませんか?
電子タバコから出るエアロゾルにも、さまざまな成分が含まれているとされ、周囲への影響が十分にわかっているとはいえません。周りの人への配慮が必要な点は同じと考えましょう。
まとめ
受動喫煙は、タバコを吸わない家族や周囲の人の健康にも影響を及ぼすことが指摘されています。特に子どもは自分で煙を避けられないため、周りの大人の配慮が欠かせません。煙が消えたあとに残る成分による三次喫煙や、加熱式タバコの周囲への影響も、軽く考えないことが大切です。
2020年4月の改正健康増進法の全面施行で、多くの施設は原則屋内禁煙になりましたが、家庭は法律の対象外です。家族でルールを決めて対策をとりながら、根本的な対策として禁煙も前向きに考えてみてください。
この記事のポイント
- 受動喫煙とは、他人のタバコの煙を吸い込んでしまうこと
- 子どもへの影響として、ぜんそくや中耳炎、SIDSのリスクなどが指摘されている
- 衣服や部屋に残る成分による三次喫煙(サードハンドスモーク)も指摘されている
- 加熱式タバコのエアロゾルにもニコチンなどが含まれ、周囲への影響は十分わかっていない
- 換気扇や空気清浄機の効果は限定的で、根本的な対策は禁煙
本記事は一般的な情報提供を目的としています。治療の可否や費用、使用できる薬剤は医療機関によって異なるため、最新の情報は受診先の医療機関にご確認ください。