「禁煙外来に通っても、次の診察までの間にくじけてしまいそう」「通院していない日も、誰かに支えてもらえたら続けられるのに」――禁煙治療を考えるとき、診察と診察の間をどう乗り切るかに不安を感じる方は多いのではないでしょうか。
そうした「診察の合間」を支える方法として登場したのが、医師が処方する禁煙治療アプリです。この記事では、禁煙治療アプリの仕組み、一般の禁煙アプリとの違い、治療の流れ、利用前に知っておきたい注意点をわかりやすく解説します。
禁煙治療アプリとは?
禁煙治療アプリとは、ニコチン依存症の治療を目的として、医師が患者さんに処方するスマートフォン用のアプリです。薬のように医師の判断で処方され、禁煙外来での診察や禁煙補助薬による治療と組み合わせて使います。
「治療用アプリ」は医療機器の一種
病気の診断や治療を目的としたソフトウェアは、「プログラム医療機器」と呼ばれ、医薬品や医療機器と同じように、国の審査を経て承認を受ける必要があります。ニコチン依存症に対する治療用アプリは、臨床試験の結果などをもとに承認され、2020年に保険適用となりました。日本で治療用アプリが保険適用となった初期の例として注目されました。
なぜアプリが禁煙治療に役立つのか
保険適用の禁煙治療は、12週間で計5回程度の診察を受けるのが標準です。診察と診察の間は数週間あくこともあり、その間に強い喫煙欲求やストレスに直面して、一人で悩んでしまうことがあります。
治療用アプリは、こうした診察と診察の間の時間に、患者さんの状況に合わせた情報提供やアドバイスを届けることで、禁煙を続けやすくすることを目的としています。体の依存は禁煙補助薬で、心の依存や習慣の部分はアプリと医師のサポートで、という役割分担のイメージです。
一般の禁煙アプリとの違い
スマートフォンのアプリストアには、禁煙日数や節約できた金額を記録できる「禁煙アプリ」が数多くあります。医師が処方する治療用アプリとは、位置づけが大きく異なります。
| 比較項目 | 医師が処方する治療用アプリ | 一般の禁煙アプリ |
|---|---|---|
| 位置づけ | 国の承認を受けたプログラム医療機器 | 健康管理・記録用のアプリ(医療機器ではない) |
| 入手方法 | 医師の診察を受け、処方されて利用する | 誰でもアプリストアからダウンロードできる |
| 費用 | 保険適用の禁煙治療と組み合わせる場合は保険が使える(自己負担あり) | 無料〜有料までさまざま。保険は使えない |
| 医師との連携 | 記録などを医師が診察時に参考にできる仕組みがある | 基本的に医師との連携はない |
| 主な機能 | 治療の段階や状況に応じた情報提供・アドバイス、記録など | 禁煙日数・節約額の記録、励ましのメッセージなど |
| 利用できる場所 | 取り扱いのある一部の医療機関に限られる | 制限なし |
一般の禁煙アプリも、記録をつけたりモチベーションを保ったりするのに役立つことがあります。ただし、治療の効果が確認された医療機器ではないため、両者は別のものとして理解しておきましょう。
禁煙治療アプリの主な仕組み
治療用アプリの機能は製品によって異なりますが、一般に次のような仕組みが紹介されています。
患者さん用のアプリ
- 治療の段階に合わせた情報提供:禁煙の準備期、禁煙開始直後、離脱症状が出やすい時期など、段階に応じた知識や対処法を届ける
- 日々の記録:喫煙欲求の強さ、体調、気分、薬の使用状況などを記録する
- 吸いたくなったときのサポート:喫煙欲求が高まったときに、気持ちを切り替えるための行動を提案する
医師側の仕組みや測定機器
患者さんがアプリに入力した記録を、医師が診察時に確認できる仕組みが用意されていることがあります。また、吐いた息に含まれる一酸化炭素濃度を自宅で測定できる携帯型の機器と組み合わせて使う仕組みもあります。日々の状態を医師と共有できることで、診察時のアドバイスがより具体的になることが期待されます。
禁煙治療アプリを使った治療の流れ
治療用アプリを使う場合も、基本は通常の禁煙外来と同じ流れです。一般的なイメージは次のとおりです。
- 取り扱いのある医療機関を探す:治療用アプリを処方できる医療機関は限られているため、事前に問い合わせて確認します。
- 初診で保険適用の条件を確認:ニコチン依存症のスクリーニングテストなどで、保険適用の条件を満たしているか確認します。
- アプリの処方・設定:医師が必要と判断した場合にアプリが処方され、スマートフォンへの設定方法などの説明を受けます。
- 禁煙補助薬とあわせて治療開始:薬による治療と並行して、日々アプリを使いながら禁煙を進めます。
- 定期的な診察:診察では、アプリの記録も参考にしながら、医師と状況を確認していきます。
アプリの利用期間は、標準的な12週間の治療期間より長めに設定されていることがあり、治療終了後の禁煙継続を支える役割も期待されています。具体的な利用期間や使い方は、処方する医療機関で確認してください。禁煙外来全体の流れは禁煙外来とは?で解説しています。
禁煙治療アプリのメリット
診察の合間も一人で抱え込まずに済む
次の診察までの間に「吸いたい」「つらい」と感じたとき、アプリを通じて対処法やアドバイスに触れられることは、心理的な支えになります。
自分の状態を「見える化」できる
喫煙欲求の強さや体調を記録することで、自分がどんな場面で吸いたくなりやすいかがわかってきます。吸いたくなる場面への対策を考える材料にもなります。
医師との情報共有がスムーズになる
「前回の診察から何があったか」を思い出して説明するのは意外と難しいものです。記録が残っていれば、医師が状況を把握しやすくなり、より自分に合ったアドバイスを受けやすくなります。
利用前に知っておきたい注意点
取り扱いは一部の医療機関に限られる
治療用アプリは、すべての禁煙外来で処方できるわけではありません。希望する場合は、予約前に医療機関に問い合わせて確認しましょう。医療機関選びのポイントは禁煙外来の選び方も参考にしてください。
費用が上乗せになる
保険適用の禁煙治療と組み合わせる場合は保険が使えますが、アプリを使用する分、通常の禁煙治療よりも自己負担額が増えます。金額は医療機関や治療内容によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
スマートフォンの操作や日々の入力が必要
治療用アプリは、対応するスマートフォンが必要で、毎日の記録や確認が求められます。スマートフォンの操作に不安がある方や、入力を負担に感じる方には合わない場合もあります。通知やメッセージを負担に感じたときも、医師に相談しましょう。
アプリだけで禁煙できるわけではない
治療用アプリは、医師の診察や禁煙補助薬による治療を補うものであり、アプリを使うだけで禁煙できるというものではありません。禁煙補助薬には吐き気や頭痛、皮膚のかぶれ、睡眠の変化などの副作用が出る可能性もあるため、気になる症状があれば医師に相談してください。
個人の健康情報の扱いを確認する
アプリには喫煙状況や体調などの健康情報を入力します。利用開始時に説明される個人情報の取り扱いについて、よく確認しておくと安心です。
禁煙補助薬を海外から個人輸入したり、正規でない通販で購入したりすることは、偽造品や健康被害のリスクがあるため推奨されません。アプリの有無にかかわらず、禁煙補助薬は医師の診察のもとで使用しましょう。
オンライン診療との組み合わせは?
通院の負担を減らしたい方は、オンライン診療による禁煙治療を検討することもあるでしょう。治療用アプリとオンライン診療を組み合わせられるかどうかは、医療機関の対応によって異なります。オンライン診療の仕組みや注意点については、禁煙のオンライン診療とは?をご覧ください。
お近くの医療機関は、全国の禁煙外来をエリアから探すから検索できます。受診前に、治療用アプリの取り扱いがあるかを問い合わせてみましょう。
禁煙治療アプリに関するよくある質問
アプリストアで探してダウンロードすれば使えますか?
治療用アプリは医師の処方にもとづいて利用するものです。一般の禁煙アプリのように、自分の判断だけで治療用として使い始めることはできません。利用を希望する場合は、取り扱いのある医療機関を受診して相談してください。
保険適用の条件を満たさない場合でも使えますか?
治療用アプリは、保険適用の禁煙治療とあわせて使うことが想定されています。条件を満たさない場合の扱いは医療機関によって異なる可能性があるため、受診先に確認しましょう。保険適用の条件は禁煙外来の保険適用条件で確認できます。
加熱式タバコを使っている人も対象になりますか?
加熱式タバコの使用者も、条件を満たせば禁煙外来の保険診療の対象になり得ます。治療用アプリを利用できるかどうかは、診察を受けたうえで医師に相談してください。
まとめ
禁煙治療アプリは、ニコチン依存症の治療用として承認され、2020年に保険適用となった「医師が処方するアプリ」です。禁煙外来での診察や禁煙補助薬と組み合わせ、診察と診察の間の時間を支えることで、禁煙を続けやすくすることを目的としています。
一方で、取り扱いは一部の医療機関に限られ、費用の上乗せやスマートフォンでの日々の入力が必要になるなどの注意点もあります。アプリストアで入手できる一般の禁煙アプリとは位置づけが異なることも理解したうえで、関心がある方は受診先に相談してみてください。
この記事のポイント
- 禁煙治療アプリは、医師が処方するニコチン依存症の治療用アプリ
- プログラム医療機器として承認され、2020年に保険適用となった
- 一般の禁煙アプリとは異なり、診察や禁煙補助薬と組み合わせて使う
- 診察と診察の間の時間を支え、記録を医師と共有できる仕組みがある
- 取り扱いは一部の医療機関に限られ、費用の上乗せなどの注意点もある
本記事は一般的な情報提供を目的としています。治療の可否や費用、使用できる薬剤は医療機関によって異なるため、最新の情報は受診先の医療機関にご確認ください。