「禁煙外来に通っているのに、飲み会でつい1本吸ってしまった」「せっかく薬を飲んでいるのに、吸ってしまった自分が情けない」「もう先生に合わせる顔がない」――禁煙治療中にタバコを吸ってしまい、落ち込んだり、通院をやめようか迷ったりしている方もいるのではないでしょうか。
結論からいえば、1本吸ってしまっても、禁煙治療をやめる必要はありません。大切なのは、そこからどう立て直すかです。この記事では、吸ってしまった直後にすること、「スリップ」と「リラプス」という考え方、医師への相談の仕方、そして再挑戦するときのポイントを解説します。
禁煙治療中に吸ってしまうのは珍しいことではない
ニコチン依存症は、やめたくてもやめにくいことが特徴の病気です。禁煙補助薬を使っていても、強いストレスやお酒の席、喫煙者が近くにいる場面などをきっかけに、つい吸ってしまうことはあり得ます。
禁煙は、一度の挑戦でうまくいく人ばかりではなく、何度かのつまずきを経て達成する人も多いといわれています。吸ってしまったことを「自分はだめだ」と捉えるのではなく、「治療の途中で起こりうる出来事のひとつ」と受け止めることが、立て直しの第一歩です。
「スリップ」と「リラプス」の違いを知っておこう
禁煙中の再喫煙は、その程度によって大きく2つに分けて考えられることがあります。
| スリップ(一時的なつまずき) | リラプス(再喫煙・逆戻り) | |
|---|---|---|
| 状態 | 1本〜数本、一時的に吸ってしまった | 吸う本数が増え、以前の喫煙習慣に戻ってしまった |
| よくあるきっかけ | 飲み会、強いストレス、「1本だけなら」という油断 | スリップのあと「もう失敗したから同じ」と考えて吸い続ける |
| 立て直しやすさ | すぐに禁煙に戻れば、治療を続けながら立て直しやすい | 状況を整理し、医師と相談して計画を立て直す必要がある |
| 取りたい行動 | 残りのタバコを捨て、次の診察で正直に伝える(不安なら早めに連絡) | まず医療機関に相談。治療の継続や再挑戦の時期を一緒に考える |
スリップをリラプスにしないことが大切
禁煙がうまくいかなくなる典型的な流れは、「1本吸ってしまった」→「もう禁煙は失敗だ」→「どうせなら吸ってしまおう」という考え方の連鎖です。このように、一度のつまずきで「全部だめになった」と感じてしまう心理は、禁煙に限らずよく知られています。
しかし、1本吸ったことと、喫煙習慣に戻ることはまったく別のことです。1本でとどめて、すぐに禁煙に戻れば、それはまだ「禁煙中」と考えましょう。
吸ってしまった直後にすること
1. 残りのタバコやライターを処分する
手元にタバコが残っていると、「もう1本」と続きやすくなります。もらったタバコや買ってしまったタバコ、ライターなどはすぐに処分しましょう。
2. 吸ってしまった状況を書き留める
「いつ」「どこで」「誰と」「どんな気持ちのときに」吸ったのかをメモしておきます。自分のつまずきやすいパターンがわかれば、次に同じ場面が来たときの対策を立てられます。吸いたくなる場面ごとの対処法は、タバコを吸いたくなったときの対処法で紹介しています。
3. 自分を責めすぎない
強い罪悪感や自己嫌悪は、かえってストレスになり、再び吸いたい気持ちを強めることがあります。「ここまで禁煙できていた自分」にも目を向け、次の行動に気持ちを切り替えましょう。
4. 自己判断で薬をやめない
禁煙補助薬を使っている場合、「吸ってしまったから薬はもう意味がない」と自己判断で中止してしまうのは避けましょう。薬の継続や調整については、医師の判断を仰ぐことが大切です。
治療を中断せず、医師に相談しよう
禁煙外来に通っている方にとって、最も避けたいのは、吸ってしまったことを気にして通院そのものをやめてしまうことです。
正直に伝えることが治療につながる
禁煙外来の医師やスタッフは、治療中に吸ってしまう人がいることをよく理解しています。次の診察で「この日にこういう場面で吸ってしまった」と正直に伝えれば、状況に合わせたアドバイスを受けられます。吐いた息の一酸化炭素濃度の測定で喫煙が数値に表れることもありますが、それは責めるためではなく、治療の状況を確認するためのものです。
薬を使っているときの注意点
- ニコチンパッチを使っている場合:パッチを貼ったまま喫煙すると、ニコチンを過剰に取り込むおそれがあるとされています。動悸、吐き気、めまいなどが出た場合はすぐに医師や薬剤師に相談してください。
- バレニクリンを使っている場合:吸ってしまっても、自己判断で服用をやめず、医師に相談しましょう。吐き気や睡眠の変化、気分の変化など気になる症状がある場合も、早めに処方医に連絡してください。
薬の特徴や副作用については、禁煙補助薬の種類と特徴で詳しく解説しています。
診察の予定まで間がある場合
次の診察まで日にちがあり、不安が強い場合や、吸う本数が増えてしまいそうな場合は、予定を待たずに医療機関へ電話で相談してみましょう。オンライン診療に対応している医療機関であれば、相談の方法を確認しておくのもよいでしょう。
吸ってしまったあとの立て直し方
つまずいた場面への「次の作戦」を立てる
たとえば飲み会で吸ってしまったなら、「しばらく飲み会は控える」「参加しても喫煙者のいる席を避ける」「1次会で帰る」など、具体的な作戦を立てます。ストレスがきっかけなら、タバコ以外のストレス発散法を増やすことを考えましょう。
禁煙の理由をもう一度確認する
なぜ禁煙しようと思ったのか、最初の理由を思い出してみましょう。健康のため、家族のため、お金のためなど、理由を紙に書き出して見返すことで、気持ちを立て直しやすくなります。
周囲のサポートを借りる
家族や身近な人に「実は1本吸ってしまった。でも禁煙は続けたい」と伝えておくと、支えてもらいやすくなります。禁煙を続けるための考え方は、禁煙に成功する人の特徴7つも参考にしてください。
本格的に吸い始めてしまった場合の再挑戦
治療を途中でやめてしまい、元の喫煙習慣に戻ってしまった場合でも、禁煙をあきらめる必要はありません。前回の経験は「どこでつまずいたのか」を知るための貴重な材料になります。
保険で再治療を受けるときの「1年」のルール
保険適用の禁煙治療を受けたことがある方が、再び保険で治療を受けるには、一般に前回の治療の初回診察日から1年以上経過していることが条件とされています。「治療が終わった日」ではなく「初回診察日」が基準になる点に注意しましょう。詳しくは禁煙外来の保険適用条件をご覧ください。
1年たっていない場合の選択肢
前回の初回診察日から1年がたっていない場合でも、次のような方法が考えられます。
- 自由診療で禁煙治療を受ける:保険は使えませんが、医師のサポートを受けながら治療できます。費用は医療機関によって異なるため、事前に確認しましょう。
- 市販の禁煙補助薬を使う:薬局・ドラッグストアで購入できるニコチンパッチやニコチンガムがあります。使用前に薬剤師に相談し、持病や他の薬との関係を確認してください。
- 1年経過を待って保険で再治療する:それまでの期間に、つまずいた原因の整理や生活習慣の見直しをしておくと、次の治療に活かせます。
なお、禁煙補助薬を海外から個人輸入したり、正規でない通販で購入したりすることは、偽造品や健康被害のリスクがあるため推奨されません。
再挑戦では前回と何かを変えてみる
同じやり方を繰り返すより、何かひとつでも変えてみることが大切です。通いやすい医療機関を選び直す、オンライン診療を組み合わせる、禁煙開始日を忙しくない時期に設定する、つまずいた場面への対策を事前に用意する――などを検討してみましょう。お近くの医療機関は、全国の禁煙外来をエリアから探すから検索できます。
禁煙治療中の再喫煙に関するよくある質問
吸ってしまったことを医師に言うと、治療を打ち切られますか?
一般に、1本吸ってしまったことだけを理由に治療が打ち切られることは考えにくいでしょう。むしろ、正直に伝えることで、つまずいた原因を一緒に考え、治療計画を見直すきっかけになります。不安な場合は、診察の冒頭で「実は相談したいことがある」と切り出してみてください。
何本までなら「スリップ」と考えてよいですか?
明確な本数の線引きがあるわけではありません。大切なのは本数よりも、「すぐに禁煙に戻ろうとしているかどうか」です。本数が増えてきた、毎日吸うようになってきたと感じたら、早めに医療機関へ相談しましょう。
治療の途中でやめてしまった場合、残りの診察だけ受けられますか?
治療の再開が可能かどうかは、中断していた期間や体調、医療機関の方針によって異なります。まずは受診していた医療機関に連絡し、今後の進め方を相談してみてください。
まとめ
禁煙治療中に吸ってしまうことは、決して珍しいことではありません。1本のつまずき(スリップ)でとどめ、すぐに禁煙に戻れば、治療を続けながら十分に立て直すことができます。大切なのは、通院をやめず、自己判断で薬を中止せず、医師に正直に相談することです。
もし元の喫煙習慣に戻ってしまっても、前回の経験は次の挑戦に活かせます。保険での再治療には「前回の初回診察日から1年以上」という条件がありますが、それまでの間にも選択肢はあります。あきらめずに、もう一度禁煙に向き合ってみてください。
この記事のポイント
- 禁煙治療中に吸ってしまっても、治療をやめる必要はない
- 1本のつまずき(スリップ)を本格的な再喫煙(リラプス)にしないことが大切
- 吸ってしまったら残りを処分し、状況を記録して、医師に正直に相談する
- 禁煙補助薬は自己判断で中止せず、気になる症状があれば処方医に連絡する
- 保険での再治療は、一般に前回の初回診察日から1年以上の経過が必要
本記事は一般的な情報提供を目的としています。治療の可否や費用、使用できる薬剤は医療機関によって異なるため、最新の情報は受診先の医療機関にご確認ください。